症状
ある日、電源ボタンを誤って2回連打してしまい(リレー音が2回聞こえた)、その後電源を入れたところこんな感じで壊れていることが分かりました。 地上波受信状態です。アスペクト比はノーマル(4:3)にも関わらず、妙に縦に伸びています。 ご覧のように全く受像せず、また音声も出ません。しかしスピーカに耳を近づけると微かに「サー」と聞こえるため、音声アンプは動作しているのかもしれません。 AFCが頑張って追従しているような音が聞こえます。 |
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設定メニュー画面を表示させてみます。 同じく画面が縦にのばされ、右上がりの黒線が流れています。 確認結果をいかにまとめてみました。 |
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調査
故障に至った経緯より、はじめに電源付近を調べてみることにします。 画面症状から垂直偏向系および水平AFCがおかしいような気もしますが、特定の機能が正常に、あるいは全く動作しないことから、高圧側というよりも小電力側を重点的に調べてみます。 (それにしても32インチは重いです。とても私一人で持ち上げられる重さではありません) |
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これがsw電源。高圧部の電源は基板の中心から左側に、小電力部の電源は右側に分かれています。 | ![]() |
まず目に付いたのは高圧部の1次平滑コンデンサ。スリーブは後退し安全弁は今にも開きそうです。大電力を消費するために余程の発熱があるのでしょう。 交換したいのは山々なのですが、この容量ともなるとかなり高価であるため断念します。 |
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AC100Vを供給して出力電圧を測ろうとかと思いましたが、2次側に保護素子が付いているようなのでこれらを調べてみます。 | ![]() |
すると、F805(定格2.5A)とF804(定格0.63A)の計2本のヒューズで導通がありませんでした。。 調べてみたところ、このヒューズは速断型のようです。 |
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ヒューズが切れたからには、その原因を見つけなくては成りません。 まず、sw電源の1次側と2次側を調べてみます。 くまなく調べましたが、半導体やコンデンサのショートは無く、問題ないようです。 |
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電源側は問題ないようなので、回路側を調べてみることにします。 sw電源の省電力側電源は全てこの基板群に供給されます。ここでは、チューナ・外部入力・M/N変換・アスペクト変換・子画面・Y/C分離・NR等映像信号処理・音声処理・マイコン等、高圧以外に関するほぼ全ての回路があります。 それにしても、空間を利用して実に見事に回路基板が構成されているのが分かります。 |
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sw電源の省電力側に繋がるコネクタA21から、それぞれの電源ラインの抵抗値を調べてみます。もしここで値が非常に小さければ、部品ショートによるヒューズ切断が考えられます。 まずはsw電源側に2.5Aヒューズのある電源ライン(推定13V付近)。9.52MΩと問題ない模様。 |
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sw電源側1.6Aヒューズのある電源ライン(推定20V付近)。10.34MΩと問題ない模様。 | |
sw電源側0.63Aヒューズのある電源ライン(推定-20V付近)。26.3MΩと問題ない模様。 |
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sw電源の13Vライン(推定)は、右図SHRAPのPQ12RF11(12V1AレギュレータIC)と別の電源基板(TNP111122)に供給されます。 このレギュレータIC付近をよく見ると、バイパス用として使われている松下製105℃標準品(GE)の液漏れが確認できました。おそらくレギュレータICの発熱によるものでしょう。このICの裏側にも同じコンデンサがあり、同様に液漏れしてます。 またsw電源の20Vライン(推定)はその後ろに写っているPQ15RF15(低損失15Vレギュレータ)に供給されます。これはBSチューナ電源になるようです。 これらのレギュレータの生死と出力側の抵抗値を確認してみましたが、問題はありませんでした。 |
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手元に105℃品がなかったため、松下SUおよびルビコンYKで代用しました。 このテレビはあまり通電させませんし、他の部品の寿命もそう長くないでしょうから、これでも良いでしょう。 |
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13V(推定)及び-20V(推定)ラインは、メイン基板上の右図の電源基板(TNP111122)に供給されます。 ここではM-Nコンバータや背面端子(入力切替)用に降圧して供給しています。ほとんどがレギュレータICです。 |
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全ての部品を調べましたが、どれも問題ないようです。 電源の出力側も測定しましたが、ショート等はありません。 |
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これらの調査結果より、電源周りの回路に重大な問題は無いと判断しました。原因として考えられるのは、どこかの部品の半ショートか、もしくは単なる突入電流によるもの、ヒューズ自体の劣化、等があります。 切れたヒューズの代用として、それぞれ2.5Aと0.5Aの管ヒューズを入れてみたところ、問題なく受像し、全ての機能が使えるようになりました。 しかしこのままだと回路の規格に合わないので、部品を調達することにします。 メーカのサービスセンターに問い合わせたところ、部品の供給をしていただけるとのことでしたので、家電店経由で取り寄せることにしました。 ※この記事では補修部品の調達にメーカのサービスセンターを利用させて頂きましたが、サービスセンターによっては、テレビの補修部品に関しては個人向けに部品供給を行わないか、もしくは高圧周辺の回路についての部品供給は行っていません。これは言うまでもなく素人修理による重大な事故・損害を防ぐためです。 ※サービスセンターは厚意により我々個人に補修部品のみの販売をしているだけであって、修理作業自体はすべて個人の責任です。修理にはかなりの技術と経験および十分な安全配慮が必要になります。 もし仮に自己責任において修理するさい、サービスセンターから部品調達を行う場合は、くれぐれも迷惑の掛からないようにしてください。サービスセンターからのサポート等は一切ありません。作業中に感電して意識不明になろうが、部品が発火して火災になろうが、それは全て作業を行った本人の責任「自己責任」です。 ここまでしつこく書くのは、一部の心ない人により、部品供給廃止、もしくは供給部品を値上げするメーカが増えてきているからです。 |
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取り寄せには思いの外時間が掛かりました。というのも、その家電店から電話がありまして「その部品の在庫が不明なので、代用品になる可能性があるが、詳細はサービスセンタからの連絡待ち」とのことでした。 代用品というのが気になりますが、数日後に届いたのがこれです。 (ちなみに、sw電源(TNP111212)のほうは部品供給終了だそうです。) 2つとも全く同じ2.5Aのヒューズです。また、これには「定格2.5A」と書かれたシールと説明書が入っていました。その内容を要約すると 「この補修部品をTH-32WD10もしくはTH-36WD10に使う場合、F804(630mA)ヒューズは2.5Aに変更されているため、同梱のシールを基板の指定箇所に張った上で交換して欲しい」とのこと。 該当ヒューズ容量の変更理由については「半導体保護素子(ヒューズ)の定格が変更になったため」とあります。当たり前ですよね。むしろなぜ容量をあげたのかが疑問です。 今まで630mAヒューズで回路が動いていたところに、その4倍にあたる2.5Aのヒューズを付けるというのは、回路(部品)もしくは設計自体に何か問題があったのでしょうか。 と考えれば、同機種のかなりの台数で不都合が発生することが予測できます。またTNP111212の供給終了も何となく分かるような気がします(ヒューズ切れ&コンデンサ老化→基板ごと交換。の流れ)。 |
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とりあえず指定通りに部品交換しました。 しかしその容量ゆえ、ちょっと気になるので、その電源ラインを観察してみることにします。 0.63Aヒューズはトランス2次側巻線と整流ダイオード(D5811)の間に入っています。平滑はC5818の25V100uFで行われ、LCフィルタを通して出力されます。しかし、トランス巻き線の直径・D5811の容量・C5818の容量・また回路側の構成から考えれば、ここに2.5Aのヒューズを入れるのに疑問を持ってしまいます。 あるいは、特定の条件における過渡特性によるものなのでしょうか? 更に不思議なのは、630mAヒューズと同時に2.5Aヒューズも切れたことですが、これも同様の現象による物なのかもしれません。 |
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その他調査
その他、このテレビについて興味のあるところを見てみることにします。 まず省電力部。チューナをのぞき、各映像処理等はこのようにまるでファミコンソフトのようにソケットを使い抜き差しできるような構造になっています。そのためメンテナンス性に優れます。 左のユニットからM-Nコンバータ・BSチューナ・地上波チューナ・地上波音声・マイコン・映像処理・映像処理となります。 |
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M-Nコンバータの内部を覗いてみます(シールド縁がハンダされてて、外すのがエラく面倒なので)。 表面実装電解コンデンサが沢山見えます。 この基板以外にも、面実装電解は非常に多く使われており、また通電中はそれぞれのユニットはかなり熱くなります。 面実装型電解はラジアルリード型と比べて寿命が短く、特にこのような環境にあるためそろそろ寿命をむかえていることでしょう。しかし問題はその数で、これら処理基板に使われている総数は100を超えると思います。全て交換すると成れば手間と部品代が相当掛かりそうです。 |
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同じくM-Nコンバータ内部。MN7A001TVS等、各処理LSIがあり、基板浦面にはSRAMがいくつか付いています。集積度はさすが松下です。 この回路の規模からも分かるように、当時はまだハイビジョンは出始めのころでした。 |
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こちらは映像処理部。フレームメモリ?だか知りませんが、それぞれに放熱器がついてます。その間には面実装電解が沢山あります。 これらでPinPや画質補正・アスペクト処理等をやってそうな感じです。 |
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こちらはネック基板。とくにハンダクラックは見つかりませんでした。 ちなみに、作業中はこいつが非常にじゃまになるので、必ずブラウン管から抜いて行うようにします。 |
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ネック及び偏向ヨーク周辺。大型だけあって偏向コイルの巻き線も太いです。 若干色ずれがあるので、コンバーゼンスを弄ってみましたが改善せず。 偏向ヨークまで弄らないとだめなんでしょうか。 |
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AC100Vライン及びマイコン電源。sw電源の高圧側と小電力側の電源は、それぞれのリレーでスイッチングしているようです。 消磁コイルはブラウン管の上側と下側で分かれており、それぞれのサーミスタで動作させます。 3つ並んだチョークコイルは壮観ですね。 |
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高圧側。ブラウン管が大型であるため、FBTもかなり大きいです。 こちらも一部で松下105℃標準品(GE)の陰極部からの液漏れが確認できました。他機種でもそうでしたが、どうもこの種は陰極からの液漏れが多いです。 もっとも、10年も経てば設計寿命範囲でしょうから、仕方ないのかもしれませんが。 |
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水平偏向trなんですが、1つはFBT駆動用で、もう一つは放熱器の奥に見えるフェライトコア・トランスに供給されており、そこから偏向ヨークへ出力されます。 大電力tr一発よりも、こうした方が安定性・部品の生産性等で有利なんでしょうか。 |
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ハンダクラックが数カ所あったため、修正しておきます。 それにしても、これらの回路全ての電力をあのsw電源で賄うわけですから、凄いですよね。なんというか、時代は進化してるなぁとつくづく思います。 ※ハンダ修正をする際は、かならず元のハンダを全て取り除いてから、新しいハンダを盛り直します。 つくづく思うのですが、これらのメンテナンス性は素晴らしいです。基板は各ブロックごとに分けられ、基板同士の接続も直接接続型コネクタを用いることにより配線コストを抑え、さらに作業性を向上させています。 また基板の固定も実に合理的であり、少ないねじでも強度が確保されています。 |
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オーディオ部。 以前の記事でも取り上げましたが、気合いの入ったスピーカです。ソースによっては聴感上50Hz付近の重低音も聞こえます。 箱はプラスチックですが粘りけの強い材質でできており、箱鳴りしにくいような印象を受けます。 左側にツィータが見えます。ウーファはさらに奥に入っており、コーン前面からの音は矢印のわずかな長方形部分のみから出てきます。右側にバスレフポートが見えます。 |
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ツィータは松下Pureismでカップリングされ、減衰させずに入力しています。 音はEAB-MPC57Sに付いている同型のツィータでも同じ印象を受けたのですが、キンキンとややきつめの音が出ます。 |
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ウーファ箱。容積は2リットル弱程度でしょうか。 ネットワークはなく、アンプに直結されています。 |
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ウーファは10cmのダブルコーン構造。ダンパーが大きく、ストロークも十分あります。 エッジは歪みを抑えた松下自慢の凹凸型で、材質はウレタンです。他の型を見てもわかるのですが、この凹凸エッジはウレタンでないと実現しにくいのでしょうね。10年経った今でも老化はまだ見られません。 |
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音声アンプICは東芝のTA8200AH。これでもかという大きさの放熱器に取り付けられています。 確かこの機種の出力は10W+10W(EIAJ)あたりだったと思います。 出力は別基板上のコンデンサでカップリングし、またメイン基板に戻ってきてスピーカに行ってます。 BTLにすればさらなる重低音が期待できるかもしれません。 |
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修理完了
※今回はごく少数の部品の交換で修理を完了しましたが、テレビの故障原因はヒューズ溶断やコンデンサ老化・ハンダクラック等の比較的容易な箇所ではない場合が多く、症状によっては高圧部等の危険性の高い箇所の故障もあります。それらを判断するにはかなりの知識が必要となります。