オーディオDACの製作


CDプレーヤや最近のパソコン、DATやBSチューナなどには、デジタル音声出力端子(SPDIF)が装備されている機種があります。
通常、これらのデジタルオーディオ機器にはD/Aコンバータが搭載されている場合が多く、アナログ音声出力も可能となっています。 しかしこういったアナログ音声出力の音質はDACや周辺のデジタル、アナログ回路の特性によって大きく左右され、なかなか好みの音が得られないことがあります。
そこで様々なデジタルオーディオ機器を自分好みの音で楽しむための、オーディオDACを作ってみることにしました。 今回は秋月電子の店頭でバーブラウンのオーディオ用DAC-IC、PCM58Pを\300/個で入手したため、これを用いることにします。 ちなみにこの石は90年代前半CD/LDプレーヤのミドルクラスによく採用されたものみたいです。

今回の製作に当たっては、次の目標を立てます。
1.出来るだけ安く作る
2.好みの音が出るようにする
3.デジタル入力はSPDIFで複数から選択可能
4.サンプリング周波数は44.1kHz,48kHzの両方に対応


回路製作

これはPCM56Pを使ったDACで、私が初めて作ったものです。
8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルタを通したのですが、その音は聴くに堪えないモノでした。どうやらPCM56Pは8fs以上だと音質的にあまりよろしくないようです。
これが秋月で買ったPCM58P。無印品です。
シリアル入力タイプの18bitD/AコンバータICで、8fsにも対応しているようです。
やはりオーディオ用DACを作るからにはできるだけ良い音質を得たいものです。音質に影響が出やすい箇所といいますとデジタルフィルター、S/H回路、アナログLPFあたりかなぁと思います。
しかしそれらを音質を考慮しながらイチから作るとなると、間違いなく私の低速な脳内処理能力を超える作業になりますw
そこで今回は邪道な手段ではありますが、手持ちのPIONEER製PD-3000というCDプレーヤの技術を拝借することにしましたw
PD-3000は音質的に割と好みですし、回路規模もそれほど大きくはないです。

右はPD-3000の音声関連の基板。電源ひとつとっても専用のOFC巻線トランスで変圧し、定電圧化にディスクリートプッシュプル回路を用い、負荷端の電圧を帰還させるなど手が掛かっています。
DACはPCM65P、デジフィルは4fsのYM3404Bが使われています。電解コンデンサにはスリーブ共振対策のため銅箔テープが巻かれ、パーツグレードもほとんど音響用です。

今回はD/A変換後の技術を真似てみます(^^;
早速製作にとりかかります。基板は秋月のユニバーサルを使用。
デジタル部はダイソー銅箔テープを使いGNDをつくります。部品の足が出るところはカッターで銅箔部分を切り取ります。
で、いきなりですが完成写真です。GNDの引き回しが面倒&見た目がよいので、真ん中にバスバー(のようなもの)を入れました。
PD-3000ではOPアンプの出力段にK364GRとJ104GRのバッファがそれぞれ付いているのですが、入手困難であったため付けてません。
デ・エンファシス回路は無し、DAIにTC9245Nを使うことでデータ・エラー時にはデータにミュートが掛かるのでミューティング回路もなしです。

I/VとS/HにはJFET入力のLF353N、LPFにはNJM5532を使用。
コスト削減のため、OSコンやICソケット、電解コンデンサなどは未使用品を使いました。
基板裏側。
DAIなどは別基板にしました。
復調ICはTC9245nを使用。SPDIF入力セレクタ(4系統)・サンプリング周波数32kHz,44.1kHz,48kHzに対応し、VCOやPLLも内蔵されており便利なICです。今回は同軸3系統、光1系統入力としました。

デジフィルはPIONEERのPD00601。8fsの18bit出力対応です。
写真ではpcm56pが付いていますが、最終的にこれは撤去してます。

裏側。信号線はポリウレタン線を使用。
電源回路。
整流はSBDを使用し平滑は昔genpin.comで買ったELNAの35V4200uFを使用します。
低コスト化のため定電圧回路には3端子レギュレータICを使用。デジタル用に5V、DACに-12V、LPFに正負15Vを供給。

ケース収め
私の場合、自作をする上で最も悩むのがケースなんです。
秋葉原の部品屋に売っているケースは高いくせに大して見た目も良くないし、穴あけも面倒、とくに目に見えるところの穴あけにおていは、穴のイチがズレれば一気にやる気を失ってしまいます。
オーディオは目で楽しむようなモノでもありますから、できるだけデザインも意識したいですよね。
そこで今回はジャンクで出ているCDプレーヤの筐体を利用することにしました。できるだけシンプルなデザインのものを探していたところ、ONKYOのC-200Aが\500で出ていました。バブル期に出たミニコン付属品ですが、再生・停止以外の操作ボタンは隠れているのでスッキリしたデザインをしてます。正面パネルはヘアライン入りのアルミで多少の高級感はあります。

どんなもんなんだろうと、ピックアップレンズのクリーニングをしたところ再生出来ました。ただ音についての評価は・・・
DACはPCM56Pが2個。デジフィルはNPCの4fs、LPFはLCのようです。DAC基板が宙吊りされていたり、サーミスタだのフォトカプラだのいろいろ使って独自性をアピールしてますが、パターンの設計が・・・だったり、回路そのものも意味のある物なのか疑問です。

これらの基板は全て撤去し、自作の基板を入れます。
表示パネル
これはC-200Aの液晶表示パネル。LC7582というLCDドライバが載っています。
バックライトには電球が使われ、通電時には橙色のバックライトが点灯します。

今回はこれらを取り去り、LEDを用いて以下の状態を表示させようと思います。
・サンプリング周波数
・入力状態
・ミュートその他
まずPC上のペイントソフトで表示パネルを描き、それをOHPシートに印刷します。
2通り試したのですが、黒色ベースで文字を出した方がよく見えたので、これを2枚重ねてより文字をくっきり表現します。

(コスト削減のため、OHPシート印刷は使用品の未印刷部分を使用しました)
OHPのうしろからLEDで文字面を照らします。それぞれ位置を微調整し、光の拡散も考慮して設定します。
パネル全体の文字面を白色光でうっすら照らしたほうがより良く見えるため、バックライトとして2個の白色LEDも取り付けました。
印刷したOHP2枚を貼り合わせ、ダイソーのアクリルパネルを使いケースに固定します。OHPの裏面には白色のアクリルを使いLED光を拡散させ、表面には半透明の灰色っぽいアクリルを使いました。
表示パネルとLEDの位置・距離をひたすら調整し、最適に照らされるポイントを見つけます。
穴あけ&取り付け
基板を筐体に固定するための穴あけを行います。
右は制御ロジックとDAI基板をケースに取り付けたところ。廉価モデルであるため鉄板も薄くて穴あけは楽です。

制御ロジックには、入力選択を行うための4進カウンタ、入力選択状況・サンプリング周波数をLEDで表示させるための4進デコーダ、その他インバータ、LEDドライバ(ラインドライバ)があります。全て\100のジャンク袋から利用。
入力選択のためのスイッチは、本体のCD再生ボタンを使います。
これを押す度に入力1-2-3-4-1-・・・となります。
取り付け後のDAC基板。
最終的にパスコンを幾つか追加しています。
電源・入力端子付近。
同軸ケーブルは貰い物、TOS-LINKは\500入手のジャンクXD-Z1100から取り外した物です。
電源トランスは、C-200Aに元から付いていた物だと電圧が足りないので外し、同じくジャンクXD-Z1100から取り外した物を付けました。
取り付け後の全体を上から。
今回、CDドライブは外すのが面倒であったため、そのままにしておきました。
筐体底面。
このようなグレードでもインシュレータは飾りではなく、一応ちゃんと4個ついていますw
筐体背面。

動作
まず電源を入れる前の表示パネルはこのように真っ暗でございます。
電源を入れると文字が照らされて、このようになります。
写真はSPDIFに何も接続されていない状態です。

サンプリング周波数表示とmute,emphasis,copyはTC9245Nの出力により表示しています。
入力選択はこのPLAYボタンを押して行います。
適切なSPDIF信号を受けるとサンプリング周波数を表示し、ミュートが解除されてアナログ音声が出力されます。
ちなみにサンプリング周波数表示は32kHzでは黄色、48kHzでは赤色で点灯します。
ちなみにこの状態でSPDIF入力を切っても、再び信号が入るまでサンプリング周波数表示はそのままみたいです。
完成

ということで出来ました。ケース選びで結構悩んだため、完成まで1年近く掛かってしまいました。
PD-3000とほぼ同じように作ったため、同じような音が出ます。といいますか、私の耳では区別が付きません(^^;
8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルタが入っているため高域のヌケの良さや立体感は有りませんが、JPOPからJAZZ,クラシックまで、無難に聴ける音だと思います。割と低域がグイグイ出ます。

試しにPCにも接続してみましたが、これまたかなり好みの音質が得られて満足です。解像度・定位感など、今まで使用してきたサウンドカード(Aopen AW744S)のアナログ出力とは比較にならないくらいです。

トータルコスト
品物 値段
半導体類 約\2590
コンデンサ類 約\1080
抵抗類 \180
ケーブル類 \0
基板類 \620
ケース \500
コネクタ類 \360
ねじ・スペーサ類 \0
その他 約\50
総計 約\5380
※今回はコスト削減のため、ジャンク品や基板取り外し品、貰い物を積極活用しました。
そのため、部品代は概算が含まれます。
ジャンクを活用しても、やはり半導体類で結構かかってしまいました。
自分としては満足行く音が得られましたので、これでも安かったということにしておきましょう(^^;;

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