SONY CDP-701ESの修理




ジャンクで「CD再生しない」というものを、\1.98kで入手しました。sonyのCDPとしては記念すべき初のESが入った音質重視モデルで、国産初のCDPであるCDP-101の発売からわずか1年後に発売されました。定価\26万と高価であり、物量投入も凄いです。
症状を見てみると、ローディングは辛うじてできるがディスクが回転せず、そのままイジェクトされてしまいました。
ここでは初期の物量投入型のCDPについて勉強してみようと思います。


開腹
まずはどんな構造なのかを調べてみます。

音質重視の設計とはいえ、初期の製品であるためかインシュレータは後の製品に見られるようなしっかりした物ではありませんでした。まぁこれの効果がどれほどなのかは、私は分かりませんので別に良いですが。
分厚いアルミでできたトッププレートの裏面には、右図のように2重のダンプ材が取り付けられています。
本体を上から見ます。
メカ類も非常にがっしりできています。
本体背面には電源トランスと、放熱器が取り付けられています。
こちらはマイコン・サーボ関連の基板。なかなか美しい配置ですねw

マイコンは富士通のが2つあります。
サーボ系はopアンプによるディスクリート構成。モータドライブICが放熱器に取り付けられています。

圧電素子がありますが、これはどういったときに鳴るのでしょう?
その基板の裏側。写真ではよく分かりませんが、配線パタンはかなり煮詰まっていると思います。ただし電源ラインにパスコンが殆ど無いので、この辺は気になります。

この基板の下には、サーボ・デジタル信号処理・LPF・定電圧回路などが載ったガラスエポキシ基板があります。
こちらはその基板のRF信号処理・フォーカス・トラッキング関連回路。
それぞれuPC357C,uPC4082Cなどのopアンプで作られています。当時はサーボ専用ICが生産しづからったのか分かりませんが、全部opアンプでこしらえる当たりが逆に新感覚でした。

学生実験でPD制御について回路製作・実験を行いましたが、こういった形で実例回路を見ると、より理解も深まりそうな感じがします(といっても、CDPの制御系はそんな簡単なものじゃないですが)。
デジタル信号処理部。
中央の面実装型LSI(型番失念)はその下に見えるSRAMと繋がっていますので、デ・インターリーブをやってそうです。同LSIは、その右の2つのIC(型番失念)にも繋がっています。下のICは上基板からサブコード関連のデータが入っている(?)ようなので、その辺の処理でしょうか? 上のICはC1F1,C1F2,...とシルク印刷された出力がありますので、エラー訂正関連だと思います。
DAC及び音声出力部。
DACはSONYのCX890。ということでこのCDPは前期型になるそうです。ちなみに後期型はCX20017になって、音が両者で違うそうです。ノンオーバーサンプリングの積分型DACということで、私には未体験の領域です。
まだまだ勉強不足でアレですがw、積分型DACはBCLKやDATA、LRCKに加えてWCLKやアパーチャ関連の信号が必要のようです。
キャンタイプのopアンプとアナログスイッチが見えますが、この辺がアパーチャ補正でしょうか??

アナログLPFはしっかりとしたシールドケースに入っています。NOSということでかなり高次のものだと思います。通電中は程よく暖まります。
アナログ信号はその後キャンタイプのopアンプを通って出力されます。
同基板上の整流平滑部。
ここではDAC、LPF、HPAMP、サーボ回路関連の電源になるようです。大型のブリッジダイオードで整流され、ELNA製 for Audio(25V6800uF)で平滑された後、定電圧回路に入ります。
サーボ関連とHPAMPの正負12Vは、本体背面放熱器に取り付けられている7812と7912により得、LPFとDACは右図に見えるディスクリートの定電圧回路で得た正負15Vをバスバーを通って供給されます。

基板上の電源ラインには、適所にヒューズ入りタンタルが見られます。同じ電源ラインでも場所によっては低インピーダンス化に普通のタンタル電解を使う当たりからも、おそらく最適な音質が得られるように場所毎に選定したのではないかと思います。
整流平滑回路はもう1つあります。こちらは別基板で、トランスの別の巻き線からとっています。
こちらはFLやサーボ、マイコン系の電源となるようです。ここからは正負11Vと定電圧化された+5Vが出力されます。正負11Vの平滑はELNA for Audioで正極側に16V8200uF 負極側に16V4700uFを使用。
正負11V は先ほどの基板上にあるコンパレータと、本体背面放熱器に取り付けられている2SA985と2SA834により正負5Vの安定化がされ、サーボ回路系とマイコン系に供給されます。また安定化される前の電源はサーボ駆動系に使われます。



原因1

メカ系のグリス固化がひどくローディングもままならない状態なので、まずはこれらの対処を行います。
右図はメカ裏側。下に見えるピックアップスライド関連の対策をします。
とくにひどかったのが、矢印でしめしたギア。これを手で回そうとしてもなかなか動かないほどに固着してます。これではスライドサーボの役目を果たせませんよね。
そこで取り外してグリスを除去し、新しいグリスを塗り直します。
さらに、モータの回転軸に付着しているグリスも同様に対策します。
ギアの溝に入ったグリスは、爪楊枝を使うと楽に取れました。

こちらはローディング関連。実に不健康そうですねw
これらも、先ほど同様にギア類を全て外して清掃・グリス塗布をしました。


原因2

上記の対策を施し、テストしてみましたが相変わらずディスクが回転しません。そこで、ピックアップ関連の清掃を行います。
レンズには非常に細かいカビのようなものが付着していましたので、IPAを使い、まずはレンズの凹面を清掃し、続いてその裏側も清掃。さらにプリズム面にも同様の汚れがあったため清掃。

これでディスクは回転するようになりましたが、TOC読まずはきだされます。

(写真には綿棒が写っていますが、この綿棒でピックアップの清掃は行っていません)
ついでだからと、PDも外してみました。するとプリズム部に同様に汚れがあったため清掃。
しかしこれによって、今度はCDを入れてもディスクが回転しなくなってしまいました。この部分は光軸の調整のためにPDの取り付け範囲を調整できるようになっています。
そこで地道に探っていったところ、CDを回転するポイントを見つけたのでそこで固定しました。

これで元に戻し、レーザレベルを若干上げてトラッキング関連の調整をしたところ、プレスCDなら音飛びながらも再生できました。
しかしまだ納得いかないので、LD部を外して汚れを確認しました。するとLDからのレーザを集光する右図のレンズ内に細かい埃が入っているようなので、LDとレンズ部を分離し清掃しました。

これで元に戻しましたが、今度はいくらレーザ出力を上げてもTOCすら読まなくなってしまいました!
どうやらLDと集光レンズとの光軸が狂ってしまったようです。LDと集光レンズは2本のビスで固定されているのですが、PDと同様に光軸の調整のため取り付け範囲を調整できるようにLD側のねじ穴が広く出来ています。
出来るだけ小さいレーザ出力でディスクが読めるポイントを見つけるのは、かなり難しく、投げ出したくなるほどみみっちい作業ですw
最終的に何とかしましたが、もうこの作業は2度とやりたくないです。

調整
このままの状態だとプレスCDさえマトモに再生できないので、サーボ関連の調整をします。


まずはRV151のF.E BAL(Focus Error Balance?)を調整します。
ここの調整はかなりシビアでCD再生にかなり影響を与えますので、できればオシロを使ったほうが良いかと思います。
元の位置をマーキングし、アイパターンのジッターが出来るだけ小さく、振幅が大きくなる点を探します。調整範囲は非常に狭いです。
この機体の場合は、元の位置だとぎりぎりアイパターンが形成されている程度でアナログ出力はノイズ・音飛び状態、左に0.5mmほど回した点が最適点でした。

続いてRV603のTRを調整。
これをUP側に回すほどトラッキングが強く掛かるようです。
デフォルトの位置だと音飛びが多発するため、この位置まで回転させます。
続いてRV153のT.E BAL(Tracking Error Balance?)の調整。
TE出力をオシロで見ながら、再生時にリプルが小さく、停止から再生に移行する時間が一番短い点に調整します。
ここはサーボ系の時定数に影響するらしく、VRを本体正面からむかって右に回すほどリプルが小さくなりますが、ちょっとした外乱でトラッキングが外れてしまいます。さらに停止から再生に移行する時間が長くなります。
逆に左に回しすぎると、リプル大となってトラッキングが掛かりません。

さらに問題なのは、CDによってここの最適点が異なると言うことです。とくにCDRではプレスCDの位置ではだめで、さらに左に回さないと認識しません。この問題はレーザ出力を上げれば改善されますが、残り少ないLDの命がさらに短くなる可能性もありますので、困ったもんです。

これら全ての原因は、一度取り外したPDやLDの光軸のずれ・・・だったりして。
でも再調整するのは二度とやりたくないのでw 
調整風景。
割とメンテナンスしやすい造りなので助かりますw
最終的に、LDへの負担を減らすため少ないレーザ出力でプレスCDのみ再生できるように調整しました。



使用感

やはり特筆するのは音でしょう。特に中〜高域にかけての独特な響きは、未だかつて聴いたことのない音です。高域は透き通るように、低域は弾むように聴かせてくれます。
最初のうちは低域が不足気味でしたが、2日ほどエージングしたところ良い響きになりました。

22年も前の製品であるため、数字の上では現代のデジタル機器とは比べものにならないくらい劣るものですが、そんなの音とは全く関係ないということを再認識させられました。オシロで見るとアナログ出力には若干サンプリングノイズが含まれていますが、この音を聴いてしまえばどうでも良くなります。
とにかくこれは一度聴くと病み付きになります。もうこのCDPは手放すことはないと思います。

ちなみにこのCDプレーヤ、1983年生まれと、実は私と同い年なのです。なんとなく愛着沸きますよねw


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